何年か前、「せとか」という1個1,000円以上もする柑橘(温室栽培で高価)を紹介したことがある。年寄りが美味しい物を口にした時「咽の巣を落とす」という言葉を発することがある(関西地域だけかもしれない)が、まさに、その表現がピッタリの美味しさではなかっただろうか。温州みかんや伊予柑の出現以降、数十年来のことだが、その風味や美味しさに興奮してしまった。さらに、「せとか」の魅力は、皮が非常に薄く(1.5mm程)丸ごと楽しめるところだ。そんな完璧な柑橘に、興味を持った人は多かったようで、PDF写真を印刷して果物専門店を訪ねた人がいたほどだ。現在では、同じ品種がスーパーなどで一山いくら(4個480円程度)で売られている。専門筋によると、全く同じ品質や美味しさを誇るものとは言えないが、それでも市場では十分美味しいとの評価を得ているという。
今日は、黄金柑(別名:ゴールデンオレンジ)という小さな柑橘を買ってきた。黄金柑の存在を知らなかったので、「小さくて珍しい」と思ったが、お店の人からは、押しつけがましい能書きや説明がなかったことから、知らないのは、どうも、私だけのようだった。周囲の空気を読み取りながら、珍しそうに覗き込んでいたので、代金支払い時に一言「食べるときは、種に気を付けて」と言われたぐらいである。昔、良く似た柑橘に黄蜜柑(きみかん)というのがあった。気管支を傷めやすかった幼いころに、よく口にした記憶があるが、このような風味ではなかった気がする。黄金柑は、温州みかんと柚子が自然交配して生まれた品種という説もあるようだが、日向夏のような風味もしている。直径50mm程の外形だから、丸ごと1個そのままいきたいが、外形は小さくても中の種が割と大きくて、丸ごと口にすると少々違和感を伴う。
丸ごと良く洗って、半分に裁断して種を取り出してから戴くのが良い。小さいという理由だけで、そのまま全部戴ける訳ではなかった。しかし、「丸ごとに拘る」には柑橘類に共通する理由がある。それは、果肉の袋には食物繊維が多く、白いすじにはビタミンB、Cが豊富に含まれている。また外皮の部分は、それらが凝縮されていて、漢方薬などにも使われている。特に、2~3個で1日分のビタミンCとクエン酸を摂取できるので、特に寒暖の差が大きな、今頃の春先にかけては欠かせない果物といえる。濃縮されている風味の中にも、口の中では、みずみずしさが広がり密度の高い美味さが印象的だ。おまけに、外皮を剥く時の飛び散る薫りが素晴らしいので、この部分を少し別に採り、乾燥したら細かく裁断して即席蕎麦の薬味に使うことにした。とっても良い案配だ。黄金柑も他の柑橘と同じで、酸味の強いのがお好きな方は、クエン酸が強く残っている捥ぎたてすぐを、甘いのがお好きな方は、しばらくテーブルの上で薫りを楽しんでから、といった感じになるが、酸味が無くなると黄金柑の風味はまるっきり変わってしまうので、お店に並んで1週間ぐらいを目途にしたい。
世の中、知らず知らずのうちに、美味しい柑橘の種類は増えているようで、その味のバランスも時代とともに広がりを見せながら種類は細分化され、お味は洗練されてきた。今、また、柑橘同士を掛け合わせた「新たな柑橘」も生まれているようで、黄金柑とそっくりの大きさなのに、 黄金柑と清見の交配種で「媛小春(ひめこはる)」というのもあるらしい。初めてだと黄金柑と区別はつかないという。残念ながら口にしたことはないが、それは、黄金柑より酸味が抑えられ、糖度14度と「せとか」に迫る美味しさだ。媛小春というぐらいうだから、今のところ「愛媛」県の特産で入手しにくいかもしれないが、早く市場に出回るいことを楽しみにしたい。今日の黄金柑(別名:ゴールデンオレンジ)はこちら