2014/05/27

オーディオマニア32

   昨年、秋葉原のラジオ会館の閉鎖ニュースを見ながら、「そうかぁ~時代の流れか」と呟きながら、そこを最初に闊歩した頃を思い出していた。大昔の秋葉原では、様々な種類のスピーカ・ユニットが店頭に並んでいたので、情報誌の評価を読みながら、憧れと、予算の許す範囲でスピーカ・ユニットを選びだし、自分でキャビネットを製作しながら、その醍醐味を味わっていたという人も少なくないはずだ。例えば、ラジオに外部スピーカとして取り付けて、音楽を少しでもいい音で楽しみたいとか、あるいは、モジュラー型ステレオのスピーカだけ付け替えて、セパレートステレオのように、もっと低音を出してみたいとか、目的も様々で、自らの意欲を掻き立てて、試行錯誤しながら、独自のアイデアで工夫する面白さを味わったに違いない。

  そのキャビネット作りは、「単に低音再生の為だけのもの」と切り捨てられる場合もあるが、そこに優れた思想なり、アイデアがあることで、想像以上の低音を出せたり、あるいは、低音の締まり方によって中域や高域にも影響を与える事がある。そして、その微妙なバランスの面白さに魅りつかれてしまうこともある。それらは、キャビネットの容積、縦x横x奥行きの比率、バスレフのダクト内部の形状や体積、キャビネットの補強の入れ方、定在波の押さえ方、あるいはキャビネットの内側に張り巡らす吸音材の材料や総量など、さまざま考えを具体化することで変化する。また、それによって低域の再生限界も決まるので、それを自らの耳で音楽を聴き、設置場所の試行錯誤をしながら、聴感上の最適値を探ることも楽しみなのである。

  一般的に、スピーカユニット単体として売られている商品には、既に推奨キャビネットの図面などが同梱されている。それを参考にしながら、置き場所に合わせて形を変えるなど、応用を図ることも、その工夫の1つになる。さらに、将来のユニット交換も考慮して、前面バフルを交換式にしておくのも良い。ついでにバフルを上下2つに分けて、スピーカユニットを装着するバフルと、ダクトを取り付けるバフルを別々に用意しておくと、更に楽しみが拡大する。それは、ユニットを取り替えて楽しむだけでなく、ダクトの長さや開口面積を変えたりすることで、積極的に低域特性を変えて楽しむことができるからだ。そのような構造のキャビネットにすることで、2つのバフルだけ新規に作ってしまえば、頻繁にキャビネット全体を作り変える必要もなくなるのである。

  今日のPDF写真にその具体例を示した。写真左側は、メーカー推奨キャビネットを専門業者にお願いして作ってもらったもの、そこそこ優れた音が出るが、いじくる面白さはない。一方の写真右側のキャビネットはユニット用のバフル、ダクトの両方を交換できるようにした自作例になる。これは、実験用に試作した時のもので、無響室で手早くダクトの形状によって低域特性がどのように変化するかを振幅、インピーダンス、ひずみ率などを周波数特性として計測した時のもの。計測だけにとどまらず、密閉式の音から、ダクトを交換したりしてバスレフのベストな状態を聴き分けることもでき、面白さが広がるのである。ただし、写真は内容積75リットルなので、Q0との兼ね合いもあるが口径20cm程度のユニットでしか使用できない。

  ラジオ会館に限らず、スピーカ・ユニットを扱うお店も少なくなり、中古品を含めても絶対量も大幅に減少していて、今やYahooのオークションぐらいになってしまった。そんな状況でも、いまだに個人的にJBLユニットLE8Tを鳴らしてみたいとか、あるいは、こじんまりとP-610を再び触ってみたいとか、いろいろと考えをめぐらせることがあるかもしれない。知識がまだ十分でなかった若い頃でも、それなりに経験を積んできた現在でも、おそらく、その意欲は変わらないように思うのである。それがすぐに現実的ではないことがわかっていても、ユニットの基本定数をパソコンに投入して、キャビネットやダクトの大きさを変えたときの振幅周波数特性を計算してみるのも楽しい。そんなことでもして、そのユニットの癖を知りながら、ああでもない、こうでもないと考えを巡らせるのも醍醐味なのである。
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%211496&app=WordPdf

補足1:バフル(Baffle)→スピーカユニットを取り付ける丸く穴のあいた板。一般的には、密度の高い板を用いて、振動が他へ伝わらないように考慮された部分のこと。
補足2:ダクト(Duct)→キャビネットに開けられた空気の管または、開口部のこと。形状として丸や四角が一般的。それには奥行きが付けられている。 
補足3:バスレフ(Bass reflex)→キャビネット内部の空気とダクト内の空気を共振させ、特定の低域周波数を強調する構造のこと。