イントゥ・ザ・ウッズと書いて、「森の中に伝わるおとぎ話」と解釈しよう。これはねぇ、・・・「赤ずきん」、「シンデレラ」、「ジャックと豆の木」、「ラプンツェル」って知ってるよね、その古典的なおとぎ話の続きを1本にまとめたのさ!と言われると、ええっ、1本に?と違和感を感じながらも、絵本の中にあった「添え画の一部」を手繰り寄せるように思い出し、懐かしさに浸る。幼い頃、本を開いては想像を膨らませていた様に、この歳になっても映画を観て「幸せな気分」になれるならば、強引に4本を1つにまとめたとか、おとぎ話の続きが奇想天外だとか、そんなことはどうでもよい。しかし、多少興味を引くとすれば、その物語がどの様に展開し、どう結末としてまとめるのか、全体を通して根底に流れる「思想」ではないだろうか。
ブロードウェイで上演されたミュージカルを基に、ディズニーが映画版ならではの魅力を加えて再構成したわけだが、やはり、4つの童話を1つにまとめる魔女には大きな負担が掛かる。その魔女役には、あの「マーガレットサッチャー」(2012/05/01紹介済み)を演じたメリル・ストリープが務めている。さすがに風格の上にも艶やかな歌声で魅了される。赤づきんちゃんを唆す狼役にはジョニー・デップが、そして、今評判のエミリー・ブラントは、パン屋の女房役といて出演している。映画の見所はそれだけではない、さすが童話が原典であることから、その子供たちの歌声にも魅了される。食欲旺盛でパンを食べながら歌う「赤ずきんちやん」は、正確無比な音程が魅力で、その専門筋をも唸らせて、聴き応え十分。まめの木に登るジャックも、飛び切り歌が上手で彼女と好対照の選出。正しい音程はどの様なテクニックも及ばないということか、それがこの映画の素晴らしさの原点といえる。
ディズニーの製作なので、次から次へとVFXを多用しながらも質感を犠牲にすることなく、隅々まで凝った映像美が展開する。実写の中に埋め込まれた華麗なVFXに、改めてその素晴らしさに興奮する。そして、最も魅力的なのが、オーケストレーションが後押しする音響効果である。必要なところに適した楽器の音を割り当て、金管ありーの、ハープありーの、地響きの様な重低音ありーのと、それに重なるフルオーケストラが奏でる「重厚で透明感のあるストリングス」が象徴的でとても綺麗。また覚えやすい旋律が、何度も繰り返され親しみやすく、知らず知らずのうちにそれを口ずさみ、どんどん親しみが増してゆく。しかし、映画館の再生装置では、中高域のきめ細かな音が歪っぽくなってしまい、サウンドトラック版CD(下の写真)に興味がそそられた。こちらは、まるで別物のように繊細かつ隅々まで端正な音が聴こえ、つい聴き惚れてしまった。オーディオマニアなら確保しておきたい1枚と言えよう。
さて、物語の内容は、やはり、メッセージ性が高く、例えば「森の中では何が起こるか分からないほど危険がいっぱいだが、願いをかなえてくれるかもしれない。しかし、自分の願いだけを求めて行動するのは良くない。願いがかなった後の周囲の人たちのこともよく考えておこう」と訴えている。現代風に言えば、森は今の社会全体を象徴したもので、「子供が欲しいとか、お金持ちになりたいとか、優しく見える人でも一皮剥けば狼だとか、親元を離れてゆく子供が愛おしいとか、思いもよらない異性の誘惑には注意しよう」とか、様々な課題が具体的な映像になっていて、それを観ながら、どのように対処すべきか、脆弱な精神を自ら認識して、熟慮の末に道を進んで欲しいと促している。うーむ、確かにそうなんだよなと思わせるほど含蓄に溢れている。
予告編はこちら
http://www.disney.co.jp/movie/woods/video.html