こんなに簡単に、こうや豆腐を口にすることが出来る環境にあるとは知らなかった。今となっては、どのような理由でこうや豆腐を戴く必要があるのか迷ってしまうことも多いが、幼いころに食べた経験から、一種の懐かしさに引きづられて、「やっぱり食べてみたい」と思うことがある。幾つかのメーカーから同様な「即席こうや豆腐」が販売されていて、それぞれ少しづつ出汁の味に違いがあるようだが、それらは、おおむね「甘みの効いた出汁」と言った印象である。こうや豆腐は、高野豆腐(こうやどうふ)とか、氷り豆腐(こおりどうふ)とも記述され、歴史的背景や生産地域によって呼ばれ方は様々だ。JAS(Japanese Agricultural Standard:日本農林規格)では、「凍り豆腐」で統一されている。
この様な乾燥した食品(乾物という)は長期保存に適している。栄養成分としては、代表的な値として、こうや豆腐1個あたり換算で、カロリー=123kcal、たんぱく質=8.7g、脂質=6.0g、炭水化物=8.7g、ナトリウム=580mg、カルシウム=93mg(牛乳80cc分)、鉄分=0.8mg(乾燥プルーン8個分)となっている。その他、元が豆腐だけに、ミネラル、ビタミン等を豊富に含んでいる。美味しさという意味では、食感は好き嫌いはあるかもしれないが、味付けには鰹エキス、椎茸エキス、昆布エキスが含まれており、日本人が美味しいと感じる要素で構成されている。
昔テレビで紹介された製法を思い出すと、寒さにおいて極めて過酷な製造方法だった。豆腐が凍る前に作業している人が凍傷になるのではないかと心配するほどで、そこまでして保存食文化を継承しなければならないのか疑問に思ったものだが、最近は全て工場で作られているようだ。原理的には、水切りした豆腐を同じ大きさに裁断し、まず最初に、冬の夜凍るような風が吹く屋外に放置する。しばらくすると凍結するが、夜が明けて昼間は水分が溶け出す。昼夜の温度差で水分の凍結・溶解を繰り返し、徐々に水気が抜けて乾物になる。言い換えると、水分が凍結するとき氷の結晶になり、溶解する時にそれが気穴として残り、スポンジのような多孔質な豆腐が出来るという仕組みなのである。
したがって、乾燥したこうや豆腐を、和風出汁に浸けることで復元する、これを「戻す」と表現する(単純に「お湯で戻す」ことも出来る)。つまり、ここでは、こうや豆腐の多孔質な気穴全体へ出汁を浸透させる。ちょうど、ミルクに食パンを浸けるような要領だが、加熱することで一様に素早く戻すことが出来る。こうや豆腐が並べられる容器に出汁を解き入れ、こうや豆腐を浸けて、電子レンジで5個12分(500Wにて)加熱。もしくは、鍋に出汁を解き入れ、こうや豆腐を浸けて、5個(10~15分程度)加熱する。出来上がったら、そのまま放置して冷めてから戴く。
戻す出汁の味が少々甘すぎると感じる場合は、出汁を自作するのがよい。丁寧に出汁を椎茸、鰹、昆布から取り出して作ることで、京都の高級料亭の味にひけを取らないお味を実現できる。元が豆腐なので、原材料は国産大豆もしくは、「遺伝子組み換えでない大豆」と表記された品物を選びたい。
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