2009/06/30

オーディオマニア6

 改札を出てショッピング街に入ると、遠くで LOVE ME DO が聞こえてきた。 この音は、赤盤の音である。ビートルズを聴くのは久々だと思いながら歩く COME ON COME ON という歌声に引き寄せられるように、ついレコード店を覗くことになった。これもお店の秘策かもしれないが、気分は良い。随分長い間、聴かなかった曲を聴かされると、昔の自分に戻ったように元気になるからだ。なんだ、こんな小さなスピーカで鳴らしていたのか、遠くからでも、近づいても、ちゃんと聴こえる。これが世界共通音源のなせる業なのだろうか、それとも、記憶にある自分の音で補足をしていたのだろうか。それでも40年近く変わらない音に聴こえた。

 最初に聴いたのは、確か ソリッドステート11 から聴こえるFM番組だったと思う。赤いステレオという文字の刻まれたインジケータが時々消えかけるような時代である。それ以来、熱心にビートルズを聴いたわけではないが、当時は、日本のグループサウンズも真似て演奏していたので、あれも、これも、みんなビートルズだったんだと、後から知った訳である。それにしても、色々な形で彼らの曲を聴かされたことになる。これほど世界中の多くの人たちに影響を与えた作品はない。現在でも、音楽教室はもとより、TV番組のバックや、CMなどにも多用され、どんなにアレンジされても、その場面を盛り立てて、人の心を揺さぶるような使い方がなされている。そのくらいバリエーションに富んだ多種多様な作品が残されている。

 彼らは、まぎれもなく才能集団だったが、モーツアルトのように溢れ出るがまま、ただそれを譜面に落としていたのだろうか。もしそうなら、それは神業でしかないが、そうではなさそうだ。広がるバリエーションとメッセージ性に富む楽曲は、やはり、妥協を許さぬ創意と工夫の中で、試行錯誤と、苦悩の上にも苦悩を重ねた末に生まれていたのである。さらに、アレンジをどうするのか、何の音を付け加えたらよいのか、どんな音質に仕上げるか、そこに、多くの革新的創作を加えたプロデューサーとレコーディングエンジニアがいたのである。彼らは、脇役に徹して、才能をより引き出すことや、作品に輝きを加えたりすることに長けていたと思われる。ビートルズのサウンドを語るとき、どうしてもそんな彼らの仕事を見逃せない。彼らのマーケティング力というか、新しいサウンドに対する創造力は、単純なコードを次々と発展させ、堂々とした肉付けの良い彫刻のような音楽に仕上げている。

 オーディオマニアとしては、そこに触れることも大きな意味がある。ギター1本で奏でたメロディーがどのようにアレンジされたのか、また、どう練られて完成したのか、より多くの人に聴いてもらうために、何が加えられたのかを知ることが出来れば、音の聴き方も変わるし「創作物に対する価値観」も変わる。今日紹介するのは、その要求を満たしてくれるCD3セット6枚である。もちろん、これを順番に漠然と聞いても楽しめるが、既存のレコードを聴き慣れた人には、「おっと待てよっ」て、首をかしげることも多い筈だ。そして、知らず知らずのうちに、音質の違いを聴き分ける能力も向上する。微妙なニュアンスの違いも分かり、何回でも聴いてみたくなり、聴けば聴くほど、知らなかった事をたくさん想像できるし、前よりもっとビートルズが好きになるかもしれない。 特に、「ビートルズは聴き飽きた」という人ほど聴いてほしい。それがファンとして彼らの人間関係に迫る次の手掛かりでもある。

 このCDはかなり古いが、大型のレコード店などには、まだいくつかの在庫を確認した。3作品全て日本盤で揃わないかもしれないが、洋盤も出ているので、ぜひ探してみて欲しい。
今後も、 少しづつ紹介しておきたい。 ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%21262&app=WordPdf