2009/09/01

アントニオ・デリ2


 低GI食品修行中と、回りには吹聴しているものの、かつて養鶏場の鶏のように、与えられたものを何も考えず食べてきた身には、デパートの地下の食品売り場は、食材の宝庫である。たとえ今まで、厳選されたものを健康第一に提供されていたとしても、この広い売り場にある様々な食材の現実を知ってしまうと「死ぬまでに食べつくせるか」不安になることがある。そんな想像をするだけでも、活力が湧いてくる。人はとかく歳を重ねるだけで世の中の事が分かったような気になり、早々と「やっぱりこれがいい」と自分の中で好物なるものに執着したがるが、他の新しい物を試すことに興味を持つことは、適度に大脳に刺激を与え、案外良いことといえそうだ。

 先週、アントニオ・デリの話を書いたこともあり、再びそのお店の前に立つことになった。 ウインドウを眺めると、以前から並んでいた商品、いわゆる定番のパスタ群に加えて、随分新たな品物が並んでいる。売れ行きの良い物は前面に出し、売れない物は下げる。そして、常に新たな商品への挑戦を心がけ、たとえ評価は低くても次々と新たな物を提案し続けるのである。このような商品代謝は健全そのもので、優れた競争力を備えている証拠ではないだろうか。同業他社と量や価格を競っているわけではない。自己の提案力や独創性を競っているわけで、そこに新たな価値を見出そうとしているのだ。大いに我々も見習わなければならない。

 今日は、その中からスズキとアサリの地中海風(惣菜)を選んでみた。実は、これにはちと訳がある。少し余談になるが、大手メーカーの市販のパスタソースに、「白身魚を使って作る」というのがある。ソースとしての発想は大変奇抜でうれしいのだが、やはり、微妙に難しい商品企画だと首をかしげてしまったのである。ソース自体は美味いのかもしれないが、「別途、白身魚を購入し焼き上げて、このパスタソースとパスタを和えてください」というコンセプトは、魚とその旨味を引き出すソースというより、全てをパスタソースで上塗りするいう意味である。これは、ライスカレーに無意識にウスターソースをかけて食べるオヤジの乱暴さに近いような気がする。白身魚の種類は多く、微妙に旨味が異なる。また、時間経過と共に臭みの増し方も異なる。その種類やタイミングを考えて調理してこそ価値がある。つまり、単独のソースでは、その僅かな違いを引き出せないのではないだろうか。ここに、商品企画者の味覚不全症候群ともいえる、机上で考えた「社内事情」が垣間見えそうだ。本来なら、「無味無臭の白身魚を使って」と記述されなければならない。・・・・と、そんなつまらない事にこだわり、ずっとそれに引っかかっていたのである。

 でも、話は続きがあり、その根拠を求めてスーパーに並んだ魚の中から金目鯛を選び、たっぷりのエクストラバージンオイルで焼いてみることにした。随分高価な焼き方になるが、実験をしたかったのである。そして、それをそのままオイルごとタッパーウエアに移して冷蔵庫で保存してみる。これが、案外想像以上に日持ちもするし、臭みも無い。これがひょっとしたらあのパスタソースの価値を引き出す手法につながるかもしれないと思えてきたのである。

 そこで、アントニオデリの仕事をとくと拝見したかったのである。地中海風というのは、地中海の沿岸で採れる魚、オリーブやトマト等を使って、あるいは、その類似の食材を使って調理したという意味に取れるが、戴く方としては、単品の惣菜としての使い方、つまりビールのお供でも良いし、炭水化物を控えるよう指導された糖尿病予備軍の人たちの主食としても楽しめる。さらに、パスタを自分の好みの硬さで茹でておいて、それに上から乗せて絡めて食べることも出来るわけだ。これで、ちょっとしたプロのお味が楽しめるのである。確かに、スズキの旨味がオリーブオイルに溶け込み、それ自体がパスタソースになっているといえる。それに食べ応えのあるサイズというか、旨味を堪能できる大きさなのだろう。他の材料はたいしたことは無いが、ポイントを抑えたシンプルな調理である。スーパーで手に入る材料はあいにく少ないが、オリーブオイルと塩、更にオリーブの実自体を追加し、ちょっとしたスパイスで美味しくいただけるということも分かった。

 今日はフィットチーネを使ってパスタとして仕上げてみた。ちょっと見た目は良くないかもしれないが、さすがに地中海風になっている。私も同じ様な物をバターと日本酒と醤油を使って作るけど、何故か故郷の味ともいえる瀬戸内海風になってしまう。こちらは、舶来な感じでほんと美味い。 で、「どうよ」って聞かれると、あの「白身魚を使って作るパスタソース」は、私にはやっぱり必要ない。
ではこちら
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