2013/03/01

オーディオマニア30

  前からちょっと気になっているお店があった。時たま、そのお店の前を通るうちに、気になる物を見かけるようになったからだ。お店と言うからには、手を翳して見ると、少し暗めの内部がわかるような、スモークのガラス張りになっていて、入口のドアの内側にはJBLと書かれた段ボールが半分入口をふさいでいたり、アキュフェーズ、TEAC等のロゴも見かけられた。そのお店には、年配の人が2~3人いるが、いつも忙しそうにオーディオ装置を丁寧に分解したり、磨いたり、組み立て直したりしている。最近、JBLのスピーカのエッジの張り替えをしていたのを覘いたこともある。当然、室内はフロアー型の大きなスピーカが何組か置いてあるが、鳴っているのを聴いたこともなく。ただ、時々訪れても、店長の能書きに耳を傾けるぐらいである。年配のオーディオマニアはこういう能書きに弱いのかもしれない。

  昔のオーディオのショールームのように、音の比較が出来るようにスピーカを聴かせてくれる状況にはなっていないが、お店の商品には、値札が付いているので、気に入った品物があれば販売してくれるようだ。懐かしいJBLのユニットも置いてあるが、少々値付けが高い様な気がする。店長は、最初は舶来の超高級オーディオを並べて、かつてのオーディオサロンの様な優雅な商売を目指していたようだが、お客のニーズに耳を傾けていくうちに、だんだん忙しくなってきたという。特に、舶来の中古オーディオ装置の扱いが多いようだ。最近になって、昔憧れていたオーディオ装置を買い揃える年配の人が増えたということのようだ。20~30年前に比べてまだ円高と言う背景もあって、カリフォルニアの会社と提携していて、JBLなどの大型スピーカは、直接客先へ配送することも請け負っているようだ。

  そんなある日、何気なく覗くと珍しくオープンデッキを調整しているのを見かけた。つい「おーっ」と声を挙げてしまった。TEACとTechnics のデッキが数台並んでいて、再生のキャリブレーション・テープが掛けられていた。覗きこむのも変だと思ったのだが、テープは何とかエンジニアリングと書いてあった。今や精密に調整は出来ないが、だいたいで良いので、周波数特性をチェックしているとのことであった。そういえば、私も高価なTEACのオープンリールのキャリブレーション・テープを2セット保管してある事を思い出した。私としては、当時の編集部の中で珍しく「誇り高きテープ党」だったので、そういう事(再生系は正しく調整されている)は、批判を受けないように人一倍気を使ってきた。オープンでもカセットでも、校正されていないテープ装置は、やっぱり存在意義はないし、互換性としては「不明瞭な点があるとして」議論にならないとか、突っ込まれることが多かったからだ。

  もう、数年前になるけれど、TC-R7のRchの再生系の調子が悪くなったことがある。もうデッキ自体を処分しようかと思ったが、まだ多くの4TR19cm 、2TR38cm のミュージックテープがあったり、TC-9000F2 もやや調子が悪かったので気が引けて、何とかしようと内部を触り始めたが、難の事もなく再生イコライザ基板の可変抵抗器を交換することで直った。その時も、左右の周波数特性を合わせるのにキャリブレーションテープが大いに役に立った。

  経時変化による故障やヘッドの摩耗など、極めて特殊な状況下で必要になることはあっても、デッキメカ自体も時間が経ってしまえば全体にガタが来るので、キャリブレーションテープなどは役に立たないかとも思っていたが、案外そうでもなかった。むしろ大いに役に立ったわけで、CBSソニー、フィリップス、ロンドン、グラムフォンなどの各社のミュージックテープが、いまだに残ってしまっているので、いまだデッキも、キャリブレーションテープも保管せざる負えない状況にある。しかし、磁気テープは環境の影響を受けるので、さらに6本1組づつ場所を変えて保管せざる終えない。たいへん厄介な代物といえる。
ではこちら
https://onedrive.live.com/view.aspx?cid=CFBF77DB9040165A&resid=CFBF77DB9040165A%211206&app=WordPdf

補足:ミュージックテープ=1965年~1978年頃まで販売された、音楽の入っているオープンリールの19cm/sec 4TR2chのテープ。当時、2,800~4,500円程度で、クラシックのレコード会社各社は競って販売していた。また、ジャズなどは38cm/sec 2TR2chのテープで15,000~23,000円程度で販売されていた。