原題:Get On Up と言う原題がつけられた作品。日本では「ジェームス・ブラウン」とズバリ伝記風のタイトルに「最高の魂を持つ男」という副題が付けられている。おおよそ、そのような副題は、「作品を視聴した我々が席を立つときに感じる」もので、制作者もしくはリリース側がアピールすべきものではない。しかし、この作品の制作に携わった人達が、自らもぞっこん「崇拝している様子」を示すものとして受け取ることも出来る。したがって、ここは、「最高の魂を持つ男なんですよ~」とジェームス・ブラウンへの尊敬とか愛情たっぷりのニュアンスを投げかけ、作品を観て、聴いて、魂で我々と同じように感じて欲しいという意図なのかもしれない。
ジェームス・ブラウンその人は、僕が理解できる領域の対極にある存在で、自慢ではないが、「ゲロッパのおじさん」とか、「カップ麺のCMのおじさん」程度のことしか認識は無かった。しかし、「えらくリズムにのったおじさん」と言う印象が残っていた。そのことが、唯一この作品へ誘う興味の1つだったと思う。あと、広告にある、「その躍動感溢れるパフォーマンスはマイケル・ジャクソン、プリンス、そしてブルーノ・マーズら、現代のアーティストに今もなお強烈な影響を・・・」という文言も興味を引いたし、また、音楽総監督にローリング・ストーンズのミック・ジャガーが努めているところも本腰を感じさせるものだった。そうやって、徐々に興味が膨らんでいったのである。
このような伝記作品にありがちな、スクラップブックを捲るような雑で安っぽい作りとは違い、内容としては、年代を綿密に振り返り、子供の頃の回想と交互に並べながら、曲の持つ時代背景に合わせて、親子、親友、妻や子供、バンドメンバー等との関係までも織り交ぜながら、ジェームス・ブラウン本人の「人間像、あるいは彼の価値観に迫った作品」に仕上がっている。映像は、配色等からして紛れも無くジャズ風、また、立ち上がりの鋭く、パルシブで、切れの良い音と、間の取り方に、ここに来て今更のように、新鮮な魅力を感じてしまう。それぞれの曲は、時代背景を知ることで、しみじみと、そのリアリティーが増して感じられた。
さて、そこはどんなに自由奔放なミュージシャンであっても、このジェームス・ブラウンには「負けそうだ」と思ったに違いない。そして、音楽性の理解よりも真っ先に、その体から放出される衝撃波のようなリズム感やパフォーマンスに引き込まれながら、その格好良さに魅了されてしまう。そして、PLEASE、PLEASE、PLEASE や Get On Up、Get On Up、Get On Up のように同じ言葉の繰り返しによって、徐々に彼の持つ音楽性が自らの魂に同期して、自然に体が覚えてしまい、徐々に活力に変換されてゆく。これが、ソウルと言われる曲の持つ魅力なのかもしれない。
見所は沢山あった。まず、ジェームス・ブラウン本人役(16~63歳まで)を通して演じるチャドウィック・ボーズマンは、力強く歯切れの良い歌声を披露しているし、有名な股割りとそこから立ち上がる演技など、簡単ではなかった筈だ。それに、踊りの衝撃的で華麗な足裁きはどのようになっているのだろうかと不思議に思えたし、首を傾げながら何度も目を凝らして眺めたが分らなかった。また、てっきり、チャドウィック・ボーズマンは、こんな歌い方ができるんだと聞き惚れていたのだが、確かに歌っているし、バンドも演奏しているのだが、曲によって、音だけはジェームス・ブラウン自身の声と、当時のバンドの演奏が使われている。これは、ユニバーサル・ミュージックのアーカイブのマルチトラック・テープから構成したもので、演技や演奏、バックダンスが音と息の合ったところを見せ付けて、絶妙になりがちな映像も完璧に仕上げている。
どこを抜き出しても、無駄のないシーンばかりで「もっと知りたい、もっと聴きたい」と思わせる構成が印象的だった。最後の場面では、親友のボビー・バードへ向けて歌い上げるバラード調の曲には、その素直なジェームス・ブラウンが表現され感動を呼ぶ。あと、少々余計だが、個人的に特に印象に残ったのが、ジェームス・ブラウンが練習中、バンド・メンバーにその楽器もあの楽器も全てドラムだと訴えるところで、一見確かに破天荒な発言に聞こえるが、そのくらい「タイトで溜めのあるサウンド」を作りたかったことが分かり易く伝わってきた。さすがに感性の男は凄いと思えた。
http://jamesbrown-movie.jp/