2015/07/31

ターミネーター(ジェニシス)

 過去に興行成績の良かった作品は、とてつもない資産を持っているのと同じだ。次回も「売上げを期待できる」という安全パイがあるので、お金もかけやすい。勿論、ファンにとっては見逃せない作品になる筈だ。おおよそストーリーの予測はできているにしても、CMであの「テーマ音楽」が流れたり、懐かしい「フレーズ」が聴こえてくると、ついつい無意識に興奮が蘇り、全身からパワーが漲って来る(あくまで個人的な反応)。

 また、主演に愛着を感じ、どんなに激しい敵の攻撃にも、絶対に殺されない(壊れない)ので、ファンとしてはそこも安心だ。今年の夏~冬は、この手の作品が顔を揃えている。ターミネーター、ミッションインポッシブル、007は外せないだろう。ターミネーターは、今回5作品目だが、3,4作品は、やや人気に陰りがあったせいか、5作品目の今回は「新起動」と言う副題が付けられている。それでは、何が違うのか、過去のターミネーター1,2作品の流れと、最新作の 5作品の背景から観てみよう。
   https://www.youtube.com/watch?v=LacFZxODnC0

   その手の専門筋の人の話では、ターミネーターと聞けば、電気回路に実装される終端抵抗を思い浮かべるらしいが、この映画シリーズでは、未来から過去に送り込まれる殺人ロボットを指す。名は目的を表すのか、めっぽう強靭に作られていて、ミッションを確実に成功させるという意味が込められている。その型名はT-800で、1985年からその役を演じてきたのが若き日のシュワルツェネッガーだ。今回も同じT-800だが、ガーディアン・ユニット(学習機能)装着済み(以降:T-800 ガーディアンと呼ぶ)として登場する(現在のシュワルツェネッガーが演じる)。


 そのほか、ターミネーターには、イ・ビョンホン演ずる液体金属製のT-1000、さらに今回は、ナノ粒子細胞から構成されているT-3000が初めて登場する。T-3000の特徴は、元々は黒色のナノ粒子細胞だが、「接触したすべての対象を複製して擬態化(ジョン・コナーに接触)」する。この2モデルがT-800 ガーディアンとサラ・コナーに襲い掛かる。性能から言えば、勝ち目の無い状況なのに、T-800 ガーディアンは何度か本音をこぼす。それが、「古いが、ポンコツではない」。この言葉には「学習してきた知恵」があることを示唆しており、これこそ、「往年のファンの心」を鷲掴みにして、心を揺さぶるメッセージと言えよう。見終わって映画館を出るファンとしては、より力強く知的な自分を実感できる筈だ。

 見所は、まず、T-800の旧バージョン(若き日のシュワルツェネッガー)とT-800 ガーディアン(現在のシュワルツェネッガー)が戦うシーンが挙げられる。予想外の展開といってしまえばそれまでだが、ガーディアンというバージョンを設けることで達成できたシーンと言えよう。そして次に、ガーディアンを襲うT-1000,T-3000の若干の弱みに関する映像表現の面白さが挙げられる。我々の持つ古い知識では、難解極まりないテクノロジーで裏付けられているようだが、あえて挙げれば、MR搭載型スパイラルCT(今だ存在していない)の放射線と磁場に引き寄せられて、ナノ粒子細胞が崩壊してゆく(すぐに復元する)T-3000の姿は極めて独創的で興味を引いた。あと、CMで見慣れてるとは言え、スクリーンでのバスの長手方向の宙返りには驚愕する。それでは、第1,2作品の監督・脚本であるジェームスキャメロンの感想を聞いてみよう。
  https://www.youtube.com/watch?v=jsWMiiqbHPI

   作品全体のアウトラインを覗いてみると、ターミネータは、スカイネットと呼ばれる人工知能(地球防衛システムが反逆して人類を滅亡させようとする)の管理下にあった。人類抵抗軍のリーダー(人類の偉大な指導者で、キリストのような立場:ジョン・コナー)の存在をなかったことにするために、リーダーの母親(聖母マリアに象徴:サラ・コナー)から抹消すためにターミネーターを過去へ送り込む。T-800 ガーディアンは、真逆に再プログラムされ、サラ・コナーを守るために過去へ送り込まれていた。また、ジョン・コナーの戦友とも、弟分とも言えるカイル・リースも自らサラ・コナーを守るために過去へ旅立つ。それでは、彼らの顔ぶれを見ておこう。おっと、あの「セッション」で鬼教師を演じたJ・K・シモンズもオブライエン役で登場している。
  https://www.youtube.com/watch?v=0txMHrFnoZ8

  ストーリーを追いかけて楽しむというよりは、映像表現を楽しむ作品と思われがちだが、「新起動」した(むしろ→ジェームス・キャメロン脚本版の継続)ことから、この作品は、次も、その次も存在するだろう。既に、第5作品にも、第1,2作品を継承する部分が多分に含まれていることから、その継続性の中に往年のファンだけが楽しめる部分があったり、ストーリーの謎や面白さが先行き浮き彫りになることも期待できる。上に挙げた3本の映像を観れば、作品への印象も少し違っていた事に気づくに違いない。ここは、1つターミネーターに興味の薄い人も、「暑気払いのつもり」で観ておきたい作品の1つと言えそうだ。