2015/07/01

トゥモローランド

 僕が10歳くらいの時には、一生懸命に「科学技術」を勉強して、大人になったら一端の科学者になる(挫折した)ことで、理想の未来が待っていると信じていた。そこには、スーパージェッターや鉄腕アトムが住んでいて、この映画に出てくるような都市空間が広がっている。そんな、夢を持って科学と言うものを崇拝していたような気がする。そのことを想い起こさせるように、作品の冒頭から懐かしい「ニキシー管の数字」がクローズアップされる(背後には幾つかの「地球モニター?」が並んでいる)。

 この表示管を見ただけで、1964年を思い出すことが出来る人たちは、物語の本質を探ることが出来るに違いない。1964年に開かれたニューヨーク万国博覧会には、ソニーから試作のソリッドステート電卓(ニキシー管表示:SOBAXの前進)が出展されている。以降、ニキシー管は各社電卓の表示に多用されてきた。つまり、その時代を象徴する最新デバイスだったのである。


  そのニューヨーク万国博覧会の発明コンテストにフランク(当時11歳の少年)は、今だ完成前のジェットバック装置(=エンジンを背負って空を飛ぶ装置)を持ち込む。このコンテストの審査をしているのが、後にトゥモローランドの提督になるニックスで、そんな未完成なジェットバック装置を不機嫌にあしらう。そこで大いに落胆しながらも執念を持って完成させたいと考えているフランクを観て可能性を見出すのが、トゥモローランドのリクルータを務める美少女アテナ。アテナは、フランクにTomorrowland のTロゴのあるピンバッジを手渡す。このピンバッチは、トゥモローランドへフランクを誘う。この発明コンテストに登場する3人が、この作品の中心人物で、重要な鍵を握っている。


 次に、場面が20年(1984年)ほど先の現代に移る。そこでは、アテナは見所のある17歳の高校生ケイシーに夢を託しTロゴのあるピンバッジを渡す。ここで、アテナは歳を取らないAA(オーディオ・アニマトロニクス:いわゆるロボット)というのが分るが、当時11歳の少年フランクは、孤独な中年男になってしまっている(ジョージ・クルーニー演じる)。高校生ケイシーは、ピンバッジによって麦畑の中で、遠くに未来の都市空間を垣間見てしまい、強く魅かれるが、トゥモローランドへは幾つかの難関が待ち構えていて、簡単に行くことは出来ない。さて、その難関へのプロセスが巧みに凝っていて、多彩な映像テクノロジーが駆使されている。しかも、かつて無いくらい奇想天外で、ぶっ飛ぶような面白いストーリーに仕上げてある。ここは、余計な説明は一切必要なく楽しめるので説明は割愛したい。

 しかし、何で孤独な中年男フランクがトゥモローランドではなく、現代の地球に存在しているか、と疑問に思われるかもしれないので、補足したい。最初に、背後には幾つかの「地球モニター?」と書いているが、この地球モニター(時間を越えて、今地球のどこかで起こっている環境破壊やテロなど危機的状況を映像として見れる装置のこと)を開発したために、トゥモローランドを追放されて、ニューヨークのピッツフィールド(田舎)でひっそりと暮らしていた。

 アテナ、ケイシー、フランク、ニックスの役割と実像を知れば、後は楽しむだけである。そのくらい単純な構図なので、誰でも屈託無く楽しむことが出来る。全体的な印象として、ややレトロな印象を受けるトーンで作品が構成されている。でも、不思議に現実感が漂うのは何故か。それは、忠実にイメージどおりに必要な部分が実際に作りこまれているからで、コンピュータグラフィックスにはない現実感を伴うからだ。そしてそれが、1960~1970年あたりに夢見た「未来のテクノロジー」を具体化した姿なので、昔の若者が夢見た未来社会=理想郷なのであろう。しかし、今の若者には、もうそんな夢なんて持たないだろうなと思うことに気づく。年配の人には、どこか懐かしいディズニー色の空気感が漂う作品になっている。
予告編はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=KPcqt7OtbT0