2014/06/10

超音波洗浄器

 ふと、目をやると、メガネ屋の前に置かれたテーブルに、7~8人のおっさんが屯していた。何がそこにあるのだろうと近づいて覗き込む。おっと、超音波洗浄器を使って、メガネを洗浄し、その美しさに興奮している。メガネのレンズだけなら、クロスだけで綺麗になるが、フレームやヒンジに溜っている長年の汗や脂、あるいはこびり付いた埃などは、クロスで拭くだけでは綺麗にならない。ただ、そういったメガネ屋の前に超音波洗浄器を置いて、客の誘いこみに使う演出は、なかなか巧妙で感心する。普通なら、メガネを買ったお店に行けば、超音波洗浄器で綺麗にしてもらえる。これは、お店の人に洗浄をお任せするから綺麗になるのであって、平素メガネを掛けないと良く見えない人が、果たして綺麗になったかどうか、見極めることは難しいのではないか。

 人の聞こえる音の周波数範囲は20Hz~20kHzとされている。超音波とは、それ以上の周波数領域のことで、おおよそ20kHz以上を指す。しかし、犬、猫、ねずみ、こうもり等は、順にさらに高い周波数が聞こえている。また、ポップスやクラシックのCD等に含まれる音楽成分は28Hz~12kHzの広い範囲で周波数が分布しているが、実際に音楽として重要な部分は40Hz~8kHz程度とされている。一方、超音波を使った医療関係の機材は既に広く普及しており、最も身近なのは、歯医者で歯垢を除去する器具だと思われる。これは水の供給下で超音波の細かい気泡波で汚れや歯垢を洗い流し、歯の隅々まで綺麗にする。また、幾つかの小さな振動子と受振子を並べたプローブを使う産婦人科等で使われる腹部用超音波装置も広く知られている。また、数倍も高速で動作する心臓用もある。その他、尿路や胆のうなどに出来る結石を超音波の衝撃波で破壊する装置等にも応用されている。

 このように、超音波を効率的に使うには、特殊な分野を除き必ず水分が必要になる。また、効率の良い洗浄には、その汚れを分解するための溶剤も、必要不可欠な材料といえる。つまり、どのような周波数を使い、どのくらいのエネルギー(パワーと時間)を必要とするかによって、洗浄に適した対象物が決まる。これを間違えると、いとも簡単に対象物は破壊されてしまうし、逆に水がないと超音波振動子も負荷がかからず破壊されてしまう。したがって、目的や用途によって必要とされる装置の種類は異なる。おおよそ、一般家庭の中にある、歯ブラシ、シェーバーの先端部分等の洗浄には小型の物でよいが、案外メガネの洗浄には、洗浄むらが出ないように、2つの超音波振動子を搭載するなど工夫が求められる。

  個人でも超音波洗浄器を使われる大金持ちの方は多い。用途は、もちろん宝石、貴金属。私の場合は、インクジェットプリンターのヘッドの洗浄に買い求めた。水と洗浄液に浸かったプリンターヘッドには、超音波の振動で水中で発生した細かい気泡(キャビテーション)が弾ける瞬間に発生する衝撃波が当たり、微細な隙間に挟まった汚れを粉砕して取り除き、一瞬で綺麗になる。ただし、表面的な隙間には有効でも、複雑に組み立てられている内部にまでは、衝撃波は届かないので、こびり付いた汚れや時間の経過したものを洗浄するには、インクの代わりにしばらくの間グリセリンを使うなど別の前作業も必要になる。
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