以前から何度か宣言染みた、自らの食に侘(わび)とか寂(さび)の思想を取り入れ、何気ない食事をより充実した時間として楽しもうとする話の続きになる。それは、まさに年齢を重ねた者として自分に適した食材を自ら求めて、試行錯誤を繰り返しながら、より少量で効果を挙げることを実践する思想でもある。しかし、単に質素な食事をすればよいとか、高級なものを少しづつ食べればよいというものでもない。それは、国内にあるさまざまな食材の中から、珍しいものを探しだし、自ら本来の嗜好を再発見しようとするもので、それが体によいとか、元気になるという薄っぺらな側面に留まらず、体に取り込む価値を求め、自らの拘りとそれに付随した満足感を得ようとするものである。と、言いながら、いまだ、よくわからんが。
今まで視界に入らなかったものを、捉えるのは口で言うほど容易ではない、また、頭から嫌いだと決め付けていた食材の中からも対象となるものを抽出するなど、まさに自己改革を迫るものだが、一方で、人として恒久的に追求したい願望の1つでもあり、それに時間を費やすことは価値がある。元々、人は親から与えられてきた食が一番美味しいと自然に感じるようになるものだ。それに馴染んでしまうと、好みの方向性もある範囲に収まってしまう。しかし、何かにつけて、「自分の食に責任を持つべき年齢」になれば、それなりにそこから派生した嗜好の形を演出したくなるのは自然のことだと思えるのである。
今日は前回の「わさびめかぶ」の兄弟分ともいえる「うにめかぶ」である。これは、瓶を横から眺めると、下部に朱色の雲丹(うに)の層と上部に緑色の芽株(めかぶ)の層が、2つに分かれて詰まっている。もちろん、他にも派生品は色々取り揃えられているが、芽株(めかぶ)と雲丹(うに)という海の幸どうしは相性が自然であり、芽株(めかぶ)の素朴な美味しさと雲丹(うに)の濃厚な香りを程よく混ぜ合わせて戴くところに、目に楽しく、口にして美味しい逸品となっている。このシリーズでは最も人気が高いそうだ。[注)→海栗(うに)は海に生息しているウニを指し、こちらの雲丹(うに)は、塩漬けになったウニを指す]。芽株(めかぶ)と組み合わせる山葵(わさび)にしても、雲丹(うに)にしても、よく考えられた組み合わせで、芽株(めかぶ)を一際魅力のあるものにしている。やはり、温かいご飯との相性は抜群に良い。ただ、雲丹と海栗との味には加工、味加工の違いがあり過大な期待は禁物である。
その理屈に覆われた効能については、今回も強調しておきたい。その芽株(めかぶ)には、ビタミンB1、B2、 カルシウム、ヨード、鉄分、ミネラル、さらに、ねばねばなどにはアルギン酸、フコイダン等の食物繊維が豊富に含まれている。そのねばねばに含まれるフコイダンは、医学的な研究が進められている素材で、研究によると、癌細胞に選択的に働いて自滅させる特殊な作用があるとされ、抗がん剤の一種として食事療法に幅広く利用されている。その他にも、さまざまな研究が進められており、今後も臨床応用で注目される食材のようだ。この「うにめかぶ」自体が、そのような食事治療的に適用できるかどうかは分からないが、芽株(めかぶ)が研究されているという事実から、単なる佃煮として片付けられない魅力が潜んでいる可能性がある。
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